アメリカ東海岸での取材写真をご紹介します。ニューヨーク、ワシントンDC、ボストン、フィラデルフィア…。いろんな人達との出会いがありました。アメリカの休日、あたたかなお日さま、僕が訪れた素敵な場所では時間がゆっくり流れていました。撮り貯めたたくさんの写真の中からほんの一部をご紹介しますね。アメリカ国内での写真館の違い、日米の写真文化やサービス、商品の違いなども僕の体験談をもとに具体的な例をいくつか解説しています。よろしければ読んでみて下さいね。
僕は東京の大学を卒業後、数ヶ月間、アメリカのニューヨークに写真撮影で滞在していました。当時はデジタルカメラはまだ普及していなくて撮影する時は全てフィルムを使っていました。当時使っていたカメラはCanonのNew-F1というカメラでフィルムはプロビアというリバーサルフィルムを使うことが多かったですね。ニューヨーク、ワシントンDC、フィラデルフィア、ボストンで人や街の風景を撮り歩いていました。それぞれの街に匂いや雰囲気の違いがあって毎日心がわくわくする滞在でした。道行く人に写真を撮らせてもらったり、町並みを気の向くままに撮影したり。
アメリカでは欧米人の写真文化に対する理解や知識、興味の高さに驚いたことを覚えています。写真だけではなく絵画に対する関心もとても高い印象を受けました。街角では熱心に写真撮影をしている人や、油絵を描いている人を本当によく見かけました。「May I take your picture?(あなたの写真を撮ってもいいですか?)」と尋ねて断られたことは一度もなく、「Sure!(もちろん!)」と笑顔で即答してくれる人ばかりでした。
当時、日本の写真館では大手子供写真館が華やかなドレスを揃えて、百日写真や七五三写真などのキャンペーンを大きく打って写真館で記念写真を撮影するユーザーの需要底上げと多店舗化でスタジオを拡充していました。撮影直後にモニターで記念写真を選べるシステムが人気を博していたのですが、アメリカの写真館事情は日本のそれとは少し違いました。ショッピングモールにある大手チェーンスタジオでは小物や衣装を用いて多ショット撮影をして、8x10(エイト・バイ・テン=日本の六切相当)のペーパーに割り付けしてプリントするスタイルが多かったように記憶しています。例えば1枚の六切ペーパーに1枚、1枚の6切ペーパーを2分割して2枚、4分割して4枚という具合に枚数が増えるごとに1枚あたりの写真サイズは小さくなるというシステムでした。一方、個人のフォトグラファーが経営する写真館はプレステージフォトグラファーと呼ばれ、スタジオで家族写真や子供達の記念写真を撮影し、高い撮影技術と高品質なプリントで差別化を図っていました。スタジオには小物などは無く、子供の柔和なポートレート、家族の暖かい写真などシンプルで少し大人な雰囲気の撮影をしていました。アメリカの写真館事情は日本とは少し違いますが、アメリカでは「遊びで写す写真」と「大切な記念写真」とのすみ分けが写真館のタイプによって明確に区別されているように思いました。
当時からアメリカの個人経営の写真館ではロケーション撮影も積極的に行われていました。ロケーション撮影と言ってもただ野外で撮影すればいいわけではないので綿密にロケハン(ロケーション現場の下見)をして上質な記念写真を提供しているスタジオが多いと思いました。また衣装レンタルなどはほとんどなく、ドレスは自前のドレスで撮影をしているようでした。欧米ではパーティなどでドレスを着ることも多いのでそのような形態なのだと思います。家族写真の撮影頻度もとても高く、普段着で素敵な家族写真を撮影してフレームで飾ったり、カードサイズで持ち歩いたり、家族写真を大切にしていつも眺めている人が多いのも印象的でした。僕が家族との時間を何よりも大切にするアメリカの生活に強い憧れを持ち、家族写真の撮影にこだわりを持ち始めたのはこのころでした。
僕がアメリカでの撮影滞在で学び得たものはとても大きく心に刻まれています。欧米の家族写真の描写はとにかく自然で優しく美しいのです。演出めいた写真ではなく「そのまま」を切り取った優しい表情の写真は心を癒してくれるものばかりでした。今、僕のスタジオには欧米のお客様が多くお越しくださっているのは、当時培った僕の潜在的な感性を見てくれているような気がしてとても嬉しく感じています。僕の写真の原点はアメリカに滞在していた頃に様々な人に出会い、現地の写真館やスタジオの雰囲気や写真文化、センスのよい洗練された欧米の写真感覚を学んだところにある気がします。